『天才が語る―サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』 
ダニエル・タメット/著  古屋美登里/訳

原題は『Embracing the wide sky

エミリー・ディキンソンについては「なぞの女性」や「The Brain-is wider than the Sky-」で書いたが、一番好きな詩のきちんとした翻訳をなかなか探し出せなかった。

ところが、ひょんなところから発見。

「ぼくには数字が風景に見える」の著者、ダニエル・タメットの著作「天才が語る」の冒頭に

古屋美登里氏の手による「The Brain-is wider than the Sky-」の訳が載っていた。

ネット上には上手に翻訳されたブロガー様の訳は載っているが、それとは重ならないように、拙ブログには適当コンニャクをとりあえず載せていたが、きちんと載せられる翻訳者の訳が見つかった上に、この本そのものが、とても面白かったのが儲けものだった。

著者は冒頭、この詩を紹介するにあたって

「小学生は全員この詩を学ぶべきだとぼくは思っている。」と書いている。

The Brain -- is wider than the Sky 

The Brain -- is wider than the Sky 
For -- put them side by side 
The one the other will contain 
With ease -- and You -- beside 

The Brain is deeper than the Sea 
For -- hold them -- Blue to Blue 
The one the other will absorb 
As Sponges -- Buckets -- do 

The Brain is just the weight of God 
For -- Heft them -- Pound for Pound 
And they will differ -- if they do 
As Syllable from Sound 

頭のなかは空より広い
なぜなら、ふたつを並べてごらん
頭に空が入るだろう
いともたやすく、あなたまでも

頭のなかは海より深い
なぜなら、ふたつを重ねてごらん
頭が海を吸いこむだろう
スポンジがバケツの水を吸いこむように

頭はちょうど神と同じ重さ
なぜなら、ふたつを量ってごらん
ふたつに違いがあったとしても
音節と音の違いほど

エミリー・ディキンソン「頭のなかは空より広い」
『天才が語る―サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』 
ダニエル・タメット/著  古屋美登里/訳  講談社 より 抜粋

「エミリー・ディキンソン」の詩を冒頭に紹介したダニエル・タメットについては、こちらの動画を見て頂いた方が本の内容をまとめるより早いと思う。
https://www.ted.com/talks/daniel_tammet_different_ways_of_knowing?language=ja

彼は高機能自閉症のサヴァンと呼ばれる人々の中でも、「自己認識と、高い言語能力のある」数少ない一人だ。


彼は頭の中を「検査される側」でありながら、自分の頭の中で起きていることに関して、実に公平な立場で語っているからだ。

今手元で読んでいる『天才が語る―サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』 は、人間の「脳」の複雑な働きや、知能指数の指標の真偽、サヴァンと呼ばれる自分の能力について、更にインターネット時代の脳と情報のかかわりについてなど、翻訳の柔らかさと相まって、医学書よりはるかに読みやすい読みものになっている。

「脳内で起きていること」が「美」という言葉と共に綴られている不思議。

「2001年宇宙の旅」を思い出す。

「赤ん坊の誕生は一種のビッグバンと言える。小さいけれど、とても複雑な脳という宇宙の始まりだ。」

『天才が語る―サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』 
ダニエル・タメット/著  古屋美登里/訳 より 抜粋

歳をとるのも悪くないなと思える文章だってある。

「歳を重ねていくことは、英知の土台を作る脳にはきわめて大きな強みになっているのかもしれない。たとえば、歳をとると情緒が安定するのは、脳が否定的な感情を抑え、肯定的な感情を育むようになるからだという研究結果がある。知識が積み重なるにつれて、老人の脳のシナプスのネットワークはさらに広がり、働きがよくなるのだ。」

同 抜粋

興味深いのは彼が第二言語(母国語ではない言葉)の修得に関して、子どもの頃に言語を学ぶ「臨界期」という言葉が、母語の獲得に関する言葉であって、第二言語の習得について言っているわけではない、と説明している点だ。

 
「世界中の言語には普遍的な特徴がたくさんある」、従って外国語を学ぶ多くの人が、「外国語を覚えるのは辛く難しいと思っているのが不思議でならない。」と言うのである。
彼はイギリス人なので、日本語を母国語とする私たちとは違うことが多々あろう。
下手に希望は持たないことにするが、なにやらこれも元気の出る話だ。
おまけにここには「正しい刺激を与えると、大人の脳でも第二原語の音声を正確に習得できるよう再訓練される」という研究についても述べてある。発音の正確な聞き取りと発声についてだ。
続けて第二原語を学んだ時期によってその言葉を保存する脳の場所が違うという研究の話も載っている。
「脳は、言語を学ぶ年齢に合わせて、それに見合った対策を立てている」とか。

そして「創造性」について。

「なぜなら創造性とは、規則に従って結果にたどり着くのではなく、むしろその規則を曲げたり壊したりしていくことで手に入れられるのだ。」

同 抜粋

アスペルガーの天才たちが「世界を変えた」とする精神科医マイケル・フィッツジェラルドの分析から繋がる独創性に関する彼の考察は何という優しさと美しさかと思う。
第6章の最後は、

「偉大な芸術作品がぼくたちの心を豊かにするのは、そういった作品がすべての者の心の奥深くに埋もれている宝物を思い出させてくれるからなのだ。」

同 抜粋

と結ばれている。

人類には共通する何かがあるから、美しさも芸術性(と言われるもの)も人の心を揺さぶるのだろうが、これを信じられないほど詩的に述べている章だ。

第8章の「思考の糧」ではWikipediaにも言及している。
wikiは便利で有難いと常々書いている私は、かなり痛いところを突かれている。

先日「池上彰のメディア・リテラシー入門」を読んだのだが、衝撃度がぜんぜん違う。

「言葉は与え、そして奪い給う」!!!!!

素人がたまたまこういった類の本を読んで、「ふんふん、わかった!」という気になるのも、脳の成せる錯覚のひとつだろうか。


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